2011年12月27日火曜日

スエズ運河を消せ

"the war magician"
デヴィッド・フィッシャー 柏書房
第二次大戦での北アフリカ戦線。
ロンメル将軍率いるドイツ軍とイギリス連合軍が対峙している。

そこに代々続くマジシャンのマスケリン家に生まれたジャスパーは40代。戦場に行くには高齢だが志願した。
希望通りアフリカの砂漠に派遣され、数人の変わり者兵士が集められた。
これをマジックギャングと名付けた。

戦車をトラックに見せかけ、段ボールを戦車に偽装し、偽の大砲をつくりダミーの兵士を組み立てた。

アレキサンドラの軍港を数キロ離れた浜辺に「移動」させ照明と対空砲火だけ本物にしてドイツ空軍の爆撃機を錯覚しむけてムダな時間と爆弾を浪費させた。

スエズ運河を上空から錯乱させる方法を考えだした。

張りぼての潜水艦、はてはボロ船を軍艦にも変えた。

中盤の山は、ドイツ軍と内通していると疑われるエジプト王の宮殿で無線機を探すため、ジャスパーはステージマジックショーを提案した。運び込まれる人体交換や、ジャスパーが自在に移動する七つの箱に、イギリスの諜報員が隠れている。かれらが宮殿の各部屋をジャスパーのショーの二時間でドイツ製無線機を探すのだ。

後半の山は、この戦争も決戦になるのだが、ドイツ偵察機もだんだんと目が肥えてダミーを見破り始めると、ジャスパーは「わざとばらして、そうだと自己満足している間に次のトリックを仕掛けよう」という意味のマジックでよく使われる手法をとる。 「イリュージョンは客が(この場合はロンメル将軍だが)見たいものを、見たと思いたがるものだ。それを利用する」

戦争で重要なことは敵に作戦や集中地点を見破られないことだろう。偽装とか謀略とかカモフラージュはマジックにも推理小説にも通じる原則だ。

小説形式で書いてるしジャスパーの内面の思いなど作家的想像力もあるが、すべて実話だ。
だから結末は誰もが知っている、まさに歴史なのだから、それでも推理小説のように563pを一日強で読めるのは文章もそうだが、共感と、ハウダニットな好奇心だろう。