2010年6月22日火曜日

「スターリン」

「スターリン 赤い皇帝と廷臣たち」(上)(下)  白水社
サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ著/染谷 徹 訳
http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08045

 とても重い本だった。 内容もそうだが物理的に重い。 私はベッドで本を読むのだが、この上下巻は仰向けでは読めない。左右に横向いて本を置いて読むしかない。寝てても肩がこる。

 英国の40代のジャーナリストは膨大な資料と面談を通じて述べるソビエト連邦の独裁者の私生活である。それも若い時代は後編に託し、権力を握った革命後10数年後から晩年までの私生活が続く。 歴史的な事件は幻のようにしか記載されない。

 その間の、キーロフ事件、大飢饉、エジェフシチナというエジェフ内務人民委員長官による粛清、モロトフとリッペンドロップ協定、独ソ戦争、スターリングラード攻防戦、クルクス戦車戦、ドイツ降伏、ベリヤによる原爆開発、ジューコフ元帥事件、ユダヤ医師団事件・・・こういう歴史的な事象がなにか半透明の壁の向こうから ぼんやりと色づいているだけで、生々しい音も声も聞こえない。

 すべてがスターリン個人の視点から、妻と娘との愛憎と同じ感覚で、ガガーノヴィッチもミコヤンもモロトフもジダーノフもエジェフもベリヤもフルシチョフもマレンコフも、、さらにはローズベルトやチャーチルまでもが執務室や別荘に現れては帰るだけの人物でしかない。
 侍従や女中の方が存在感があるのだ。

これは何かに似てる。 どこかで読んだことがある。

「金正日の料理人---間近で見た権力者の素顔」扶桑社 2003年

 寿司職人の藤本健二が北朝鮮の工作員に誘われて数年間破格の報酬で平壌で金正日のお抱え料理人かつ遊び仲間でいた男だ。 彼は三冊の本を書いているがどこにも政治的な事象も国際的な事件もない。 あたかも政治的な無重力にいたようだ。
 また長男の金正男とその母成恵琳についての記述もないし、全く知らなかったようだ。
 それでも後継者と言われている金正雲とその兄と母高英姫については詳しい。そもそも三男が後継者だと断言したのは少年時代のキム・ジョンウンしか知らない藤本健二なのだ。

 このあたりにスターリンを最も熟知していたのが従官ポスクリョーブィシェフなのと類似している。
 金正日の死後の伝記が楽しみだ。