2011年5月19日木曜日

俺俺

星野智幸「俺俺」新潮社

 大江健三郎賞でさきほど読んだ。書評でもずいぶん賛辞されている。

 主人公が気まぐれに 俺俺詐欺をすると、被害者「母」は主人公を息子と思い込む。
ところが主人公が実家に帰ると、母は怒鳴りはじめ奥から「俺」そっくりな男が出てきて「またか」とつぶやく。アパートに帰ると「母」が来て世話をやく。 実家の「俺」とその知り合いで学生の「俺」と三人で飲み明かすと「俺」同士で気が合い遠慮もなく快適だ。

 ここまでとてもアイデアもいいし話の流れも惹かれる。安部公房とか筒井康隆を足したような進行。 ここまでが1/3で不条理な展開だが読みやすい文章でもある。

 ところが中盤も後半もこのまま続く。  まるで富士急ハイランドのジェットコースターのように、同じようなカーブとダウンの「品質」の繰り返し。もういい降ろしてくれ。  ディズニーシーの「地底旅行」はメリハリがある設計で、もう一度乗りたくなる。あの逆。

 この小説には誰でも、現代社会の・・・という規定しやすそう。 アイデンティティの危機、自己不安、全体主義への誘引とか。。
 さらにここでは、オレオレ詐欺、マクド、家電屋の販売員、地方自治体の窓口、税理士とか、単純労働者以上知能職以下が多い。

 設定のアイデアにあふれ、文章に乱れもないし読みやすい、でも驚きも意外性も感動もない。図書館で借りる本としてはお薦めです。