8月15日午後、役員会議室と総務部長席だけの話。
妻を台所で転倒して下半身不随の数年後に亡くし、定年を翌月にした総務部係長、 海外出張中に妻を事故死させた企画部(マーケティング)課長、 企画部の女子社員と婚約中の経営管理部の主任。
社内結婚した三人が主役だが、場所、時刻、登場人物を限定した会社ミステリ。
四文字カタカナの大手洗剤メーカーだが、お盆休みの本社はまったりしていた。
取締役らの暇つぶしのような販促会議が社長が列席で最上階の社長室となり役員会議室で進行中にPPTに異変がおこる。
無能な総務部長はさておき、総務部係長と経営管理部主任の推理。 密室のような役員会議室には企画部課長とその部下で婚約者がいる。
「扉は閉ざされたまま」での成城のペンションの二階の密室の客室で友人が殺されたままの24時間を数少ない材料で推理するのに近い状況。
<推理の問題点>
p271の最初の数行、サラリーマン作家としての推理の限界があって、「トップならわれわれと違ってそんな気遣いいらないだろう」という予断が思考を曇らせている。
p276あたり、推理に枠を設けるためだろうが、「次期社長は別分野の役員から」という因習はわかるが、7人の役員から3人退場する異常事態なら例外として社外IRでも社内向けモチベーションも十分に可能だろうし、一部上場企業でそれでも「習慣に従う」などと言えば東証でも経済界でも笑いものだろう。
p282 パズルとしても最も弱い部分。 主任は恋人のケータイの実況中継で、係長は盗聴器を役員室に仕掛けた上、無線から音声認識文字変換ソフト(2010年には実用化してない)でお互い「都合のイイところをズルしてる」のが問題だ。どうしょうもないのだろうが。
最後は悪い人らが自滅合戦したあげく魔法使いマーリンから若きアーサー王が導かれるイングランド王国のような結末。卑怯な大臣らはまだ残っているが、バランスのいい王様(社長)と王女がいる。
40代前半の石持氏がどの会社のどの部署にいるのか知らないが、サラリーマンの童話だろう。
会社組織がいまいち分かってない若い人や企業経験ない人にお薦めです。